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08.23(WED)2023

原著論文発表

【薬品分析化学研究室】光刺激でらせん構造を制御する分子の開発に成功(Chem. Eur. J.誌の表紙絵として掲載)

薬品分析化学研究室が取り組んだ研究「Photoisomerization of “Partially Embedded Dihydropyridazine” with a Helical Structure」が、Wileyの学術雑誌Chemistry – A European JournalのHot Paperとして掲載され(2023年8月23日)、雑誌のFront Cover(表紙絵)に選ばれました(2023年10月23日)。


ヘリセンと呼ばれるらせん状の多環芳香族化合物は特異な構造や光学特性を有することから、近年では医薬品のリード化合物や触媒、有機材料としての幅広い応用が期待されています。一方、含窒素複素環であるジヒドロピリダジン(DHP)は、光応答性を有し光により環開裂しビラジカルが生成することが知られています。
今回、薬品分析化学研究室の臼井一晃准教授と唐澤悟教授らの研究グループは、統合薬学教育研究室の川幡正俊准教授、神戸大学の小堀康博教授らとの共同研究によって、DHPをヘリセン分子に組み込んだ分子(PDH)を新たに合成し、ヘリセン分子では初となる光刺激に応答したらせん反転現象(光駆動らせん反転)を見出しました。この光駆動らせん反転は、DHPの1)窒素-窒素結合の開裂、2)炭素-炭素単結合の回転、3)窒素-窒素結合の再結合を経て進行します。また、この過程は、通常の熱的ならせん反転に必要なエネルギー(ラセミ化障壁)よりも低いエネルギーで進行することも明らかにしました。この研究成果は、光を利用したらせん構造(右巻き/左巻き)のキラル制御のみならず、生命*ホモキラリティー起源(自然界のキラル分子のキラリティの偏り)を解明するための手がかりとなる研究に発展することが期待されます。


なお、Front Cover表紙絵では、「ジャックと豆の木」の伝説にインスパイアを受け、らせん状に空へと伸びる木々が描かれています。これらの木々は、らせん分子を象徴し、太陽光(=光照射)により、分子内の窒素-窒素結合の開裂を介してラセミ化が進行することを視覚的に表現しています。


*ホモキラリティー:私たちの右手と左手の関係のように、鏡に映した形が元の形と重ならないような分子同士の関係を「鏡像異性体」といいます。例えば、アミノ酸にはD体とL体の鏡像異性体が存在します。通常の化学反応によってこのような分子を合成すると、鏡像異性体が1:1の比で混ざった混合物(ラセミ体)が得られてしまいますが、生命現象に関わるタンパク質はL体に偏ったアミノ酸で主に構成されています。これを「生命のホモキラリティー」と呼び、その起源は未解明ですが、宇宙で発生したらせん状の光(円偏光)が影響している可能性が考えられています。

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