お知らせ・トピックス

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07.29(SAT)2023

NASH治験薬である三種PPARアゴニストのPPARα/δ/γサブタイプ活性化能と結合様式を解明(Antioxidants誌に掲載)

本研究室における研究「Functional and Structural Insights into the Human PPARα/δ/γ Targeting Preferences of Anti-NASH Investigational Drugs, Lanifibranor, Seladelpar, and Elafibranor」が、MDPIの学術雑誌Antioxidantsにオンライン掲載されました。(2023年7月29日)

 

脂質代謝・糖代謝など代謝全般を統括的に制御する転写因子型核内受容体PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)には、α/δ/γの3サブタイプがあります。すでにPPARαアゴニストが脂質異常症薬、そしてPPARγアゴニストが糖尿病薬として臨床で使用されていますが、現在PPARδアゴニストが各種代謝異常症薬、そしてPPARα/δ/γの2つないし3つに作用するPPAR dual/panアゴニストがNASH(nonalcoholic steatohepatitis:非アルコール性脂肪肝炎)治療薬として期待されています。肥満人口が爆発的に増えている世界で、NASHを含むNAFLD(nonalcoholic fatty liver disease:非アルコール性脂肪性肝疾患)の有病率は35%にも達していますが、未だその根本治療薬がありません。今回我々は、NASH治療薬として治験中あるいは臨床試験で開発中止となったPPAR dual/panアゴニストであるLanifibranor、Seladelpar、ElafibranorのPPARα/δ/γ活性化様式と結合様式を明らかにしました。

 

Lanifibranorはフランス Inventiva Pharma 社により開発され、現在第3相臨床試験が行われています。LanifibranorはPPARα/δ/γの3つとも活性化するPPAR panアゴニストであり、測定した結果も同様にPPARα/δ/γの3つとも活性化しました。PPARとの結合様式はサブタイプ間で大きな差はなく、同様の結合様式を取ることが分かりました。

 

一方Seladelparは米国 CymaBay 社により開発された稀な PPARδ選択的アゴニストです。第2相臨床試験中に肝臓生検での異常所見が見つかり中断となりました。米国食品医薬品局は Seladelpar との関連を否定し中断は解除されましたが、その後臨床試験は再開されていません。活性測定の結果、PPARδを非常に低濃度で活性化した他、高濃度ではPPARα/γも活性化しました。高濃度で活性化するPPARγでは、活性化に必要なカルボン酸が通常よりも遠い位置にあり、それが活性に影響していると考えられました。

 

Elafibranorはフランス Genfit社により開発され、第3相試験が行われていましたが、中間分析の結果、主要評価項目である線維症の悪化を伴わない NASH の消失に対して統計的に有意な効果を示さなかったため、NASH 治療薬としての開発が断念されました。ElafibranorはPPARα/δの2つに作用するPPAR dualアゴニストと言われていましたが、測定の結果PPARγも少し活性化しました。ElafibranorはPPARα以外の複合体構造を得ることができず、サブタイプ間での比較はできませんでした。

 

この研究成果から、現在NASH治験中のLanifibranorとSeladelparは、それぞれPPAR panアゴニストとPPARδ選択的アゴニストのリード化合物として有用であることが示されました。

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