数理科学 瀧澤研究室

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物質のクォーク構造を理論的・実験的に探る。

ご挨拶

 陽子や中性子、π中間子といった、強い相互作用をする物質のことをハドロンといいます。ハドロンは、クォークとグルーオンから構成されており、その系は相対論的ゲージ場の量子論である量子色力学(QCD)で記述されます。しかし、ハドロンのクォーク・グルーオン構成の詳細はよくわかっていません。その理由は、場の量子論で通常使われている、摂動展開が、相互作用が強いために使えないからです。また、クォークが単体では存在できないという、カラーのとじこめという現象があり、これは、単体では存在できない粒子を扱うといった、形式的にも非常に難しい問題になっています。

最近、エキゾチックハドロンとよばれる新しいクォーク構造を持った粒子が続々と発見されて大変注目を集めています。本研究室では、エキゾチックハドロンの構造を理論的に研究するとともに、Belle & Belle II国際大型加速器実験に加入して実験的な研究もしており、QCDのより深い理解を目指しています。

研究概要

ハドロン構造の理論的研究とBelle・Belle II実験におけるハドロン研究

重いクォークを含むエキゾチックハドロンの構造の理論的研究

 ハドロンのクォーク構造が提唱されてから、すでに半世紀が過ぎましたが、2003年に高エネルギー加速器研究機構のB factoryのBelle実験グループがX(3872)という粒子を発見するまで、ハドロンはクォーク3体系のバリオンかクォーク・反クォーク対で出来ているメソンしか発見されていませんでした。これ以外の構造を持つものをエキゾチックハドロンとよんでいます。X(3872)はクォーク2個、反クォーク2個の成分を多く含み、エキゾチックハドロンと考えられています。X(3872)の発見を契機として、次々とエキゾチックハドロンと考えられる粒子が発見されつつあります。しかし、それらの粒子の構造はまだよく解っていません。

 2008年からX(3872)の構造の理論的研究を日本社会事業大学の竹内教授と始め、その後2010年からは上智大学の清水教授も加わり、研究を続けています。我々のアプローチはQCDを直接解くことは出来ないので、QCDの特徴を持った実効理論やクォーク模型を用いて、実験で測定されている色々な観測量を計算し、どのような量がどのような構造に関係するのかを詳しく調べ、現在実験的に観測されている全ての性質を矛盾なく説明する構造を見出しました。

 今後は、X(3872)の研究経験を生かして、最近新たに発見されているエキゾチックハドロンの構造を研究することを計画しています。特にこの数年で急速に発展しているスーパーコンピュータを用いたシミュレーションの結果を実効理論やクォーク模型に取り込んで、実効理論、クォーク模型の精度を高めることを計画しています。

Belle & Belle II実験におけるハドロンの性質の研究

 Belle実験は、高エネルギー加速器研究機構に建設された電子・陽電子大型加速器であるKEK B factoryにおいて、80億電子ボルト(8GeV)の電子と35億電子ボルト(3.5GeV)の陽電子を衝突させ、大量のB中間子やタウ粒子、チャーム粒子を生成し、その生成・崩壊過程から標準理論の検証を行っている実験です。1999年から2010年まで約10年にわたり世界最高の性能で運転を続けてデータを蓄積しました。Belle実験は世界15の国と地域からの約60の大学・研究機関に所属する約400人の研究者が参加する国際共同チームによる共同実験です。新たなデータ収集は終了していますが、すでに蓄積したデータの物理解析は現在も続いています。
 私は2009年の4月からNuclear Physics Consortium(NPC)の一員としてBelle実験に参加しています。7年間の貢献が認められ2015年11月からはBelle実験の論文のオーサーシップを頂きました。Belle実験データの解析をして、現在までには、まだ、測定されていないハドロンの性質の決定をNPCの仲間と共同で進めているところであり、今後も継続していく予定です。

 Belle II実験は、Belle実験の改良型の実験で、現在建設しているKEK Super B factoryというKEK B factoryの40倍の強度の大型加速器を用い、Belle II測定器はBelle測定器の改良型で、より詳細に粒子の生成・崩壊過程を検出できるように改良したものです。2016年2月には装置の調整のための加速器の運転が始まりました。2018年には、物理データの測定が開始される予定です。Belle II実験は世界約30の国、約100の大学・研究機関、約700人の研究者が参加する共同実験です。私は、Central Drift Chamber(CDC)という検出器の建造を手伝っており、間も無く完成する予定です。

 Belle IIデータの蓄積が開始されたら、そのデータを使って、ハドロンの現在までの測定されていない性質をさらに詳しく研究していきたいと計画しています。特にエキゾチックハドロンの性質に注目しています。理論的な研究と実験的な研究を両方行う研究者は世界的に見ても非常に少なく、私は、理論研究者と実験研究者の橋渡しの役割も果たしていきたいと考えています。国内では、すでにそのような研究者として認識されつつあります。Belle II実験は今後15年程度続くと考えられますので、自分が物理学者を続けている間は、このテーマを継承していく予定です。

 Belle II実験の主な目的はNew Physics現象の発見です。もしNew Physics現象が発見されれば、それはノーベル賞級の発見であると考えられています。Belle II実験はCERN(欧州原子核研究所)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で行なわれている実験と相補的な実験と考えられており、 New Physics現象の探索の解析も将来的には行いたいと考えています。そのため、New Physics現象の探索に関して、理論、実験の両方の現在までの発展を勉強しているところです。

教員紹介

瀧澤 誠 講師 / 学位:理学博士

  • 研究分野:ハドロン物理学、原子核理論物理学、素粒子実験物理学
  • 担当科目:基礎物理学II(1年後期)
    情報科学演習・実習(1年前期)

量子レベルで現象を理解しましょう。

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